2012年6月18日月曜日

★ くじら日和:山本一力

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● 2011/04/10[2008/02]



 藤沢周平さんにかかわる取材で、山形県鶴岡市を訪れた。
 藤沢さんが『海坂藩(うなさかはん)』として描かれている架空藩の元は、庄内藩である。
 藩主酒井家は現在も続いており、いまは酒井忠久氏が18代当主である。
 庄内藩は、古くから藩校『致道館(ちどうかん)』を構えていた。
 そして中国古典(漢文)の『素読』(大声を出して読む)を奨励した。

 その素読がいまも鶴岡市で生きていた。
 「論語抄がテキストです。
 期間は5月から10月までの毎月第二・第四土曜日で、午前八時から40分まで実施しています」
 酒井氏は気負いのない口調で、詳細を語ってくれた。
 酒井氏が館長の致道博物館で行われている素読は、鶴岡市内の小4から中3までの生徒が対象。
 夏休みの期間中の6日間は、午前5時40分から行うという。

 藩校『致道館』は、一般見学ができるようにいまも開放されている。
 火曜日に取材をしていたとき、致道館の一室から、こどもたちが論語を素読する声が聞こえてきた。
 全員が背筋を張って、きれいに正座している。
 わたしは取材中であることも忘れこどもたちの後ろ姿に見とれた。
 そののち、真似して最後列で正座をした。
 しかし、ものの5分と持たず、膝を崩す羽目になった。
 ところがこどもたちは見事に正座をつづけた。
 素読が終わったとき。足のしびれで動けないわたしを尻目に、24人の小学四年生が美しい所作で立ち上がった。
 この子たちには、言葉のすり替えなどの小賢しいことは通用しない‥‥。
 心底から感じた嬉しさで、しびれの痛みも消えた。
 藤沢周平さんの凛とした文章。
 鶴岡市をおとずれて、わけの一端を強く感じた。




[ ふみどころ:2012 ]




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