2012年8月19日日曜日

:成長のひずみ(2)

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● 2005/08/25[2005/07/20]



 国務院発展研究センターが2002年に明らかにしたところによると、貧富の格差を示すジニ係数は、1980年には「0.33」だったが、1994年に警戒ラインの「0.4」を突破した。
 すでに、「0.45」を超えたという。
 中国における格差拡大には4つの特徴がある。
①.第一に、収入格差の拡大が速い。
②.第二に、異なる社会集団間に格差が存在する。
  とくに都市と農村の格差、業種間の格差が大きい。
③.第三に、民衆の格差に対する不満が強烈である。
④.第四に、格差が引き続き広がる傾向にある。

 中国のWTO加盟の影響がまもなく顕在化する。
 多国籍企業の対中進出が加速すると、脆弱な国内企業は経営不振となり、失業者が増加する。
 GDPが一人当たり1,000米ドル(日本の1/30)の現段階から5,000米ドルに向かう段階は「格差拡大期」だという。
 中国ではこれまで「GDP万能論」であった。
 GDP(国内総生産)さえふえれば、あらゆる一切の問題が解決できると考えてきた。
 しかし、このところ
 「成長率だけが、常に公平をもたらし安定を保証するわけではない」
という考え方も増えてきた。
 経済成長を続けてはいるものの低収入層は依然として多く、国有企業のリストラ労働者や収入が伸びない農民たちは強い不満を感じている。
 中国には経済成長の重圧感が蔓延しており、成長の果てしなき追求により、「集団疲労感」が生まれている。

 中国に存在する格差には
1,都市内部
2,都市と農村
3,地域間
4,業種間
の4種である。

 都市部には繁栄のイメージが強いが内部格差は広がっている。
 2002年の都市部最高収入層の収入は最低収入層の8倍だった。
 1992年には3.3倍である。
 農村においては2002年は9.3倍で、1990年では6.7倍であった。
 都市と農村の格差も拡大している。
 農村は人口では大半を占めるが、収入は少なく消費できない。
 農村は人口の6割を占めるが「社会消費財小売額」は37%である。
 人口の4割である都市部は逆に小売額は63%を占める。

 地域間格差については、東西の格差が顕著である。
 GDPでみてみると1991年には1.86倍であったが、2002年には2.47倍になっている。
 浙江省(東)と貴州省(西)では、11年前は2.7倍だったが、いまは5.3倍になっている。
 この地域格差は国有企業改革と関連している、と言われている。
 東部は製造業、中部は農業、西武は天然資源である。

 格差は「分配の不公正」が根源にある。
 経済政策は、高収入層と独占業種に有利になっている。
 格差拡大の背景には、やはり政治の問題がある。
 毛沢東時代の強大化した官僚機構の権力は温存されたまま、鄧小平の市場経済化が始まった。
 それが特権を利用して暴利をむさぼることを可能にした。
 中国ではこれを「権力の市場化」と呼ぶ。
1.資源を配分する政府部門関係者
2.国有企業経営者
3.その」一族と取り巻きたち
は、簡単に権力を市場化することができた。

 最大の利益を得たのは3種類の人間だと指摘されている。
①.社会資源の管理者
  たとえば、国土局、計画局あるいは金融機関の関係者である。
  土地、モノ、カネにかかわる部門である。
  直接賄賂を受け取り、公共を横領するチャンスが多い。
②.国有企業の責任者
  企業の公有財産を私物化できる。
③.権力を金銭に換える能力をもった仲介者。
  私営企業、退職した役人、現職の役人の親族・愛人たちなど
  社会資源の管理者は、仲介者がいてこそ権力を筋繊維換えることができる。

 近年、こうした「社会資源の管理者」や「国有企業の責任者」の逃亡が話題になっている。
 逃亡には、3つのパターンがある。
①.周到な計画を練り、最初に妻子を海外に出す。
  財産を徐々に移転し、最後に自分が辞職して国を離れる。
  人目を引かない。
  準備期間は1~3年。
②.腐敗が発覚して、急いで逃げる。
  しばらく民間に隠れ、チャンスをみて出国する。
  ニセのパスポートや身分証明書は事前に準備している。
  腐敗発覚時の逃亡は予定に入れてある。
③.国外での研修や視察の機会を利用して逃げる。
  妻子を捨てるものもいる。
  靭尾機関は3カ月から1年。
 国有企業の責任者は、国外逃亡するケースがもっとも多い。
 役人の場合は、府局長級幹部が多い。
 目立たないが、権限が多く蓄えたカネも多いからだ。
 ランクが低すぎると、金が少ない。
 ランクが高すぎると、目立ち過ぎる。
 逃亡中の役人は海外で生活が十分に可能となる最小限の金額として、少なくとも数百万元以上である。
 200万元以下では生活が危くなり、1,000万元に達するケースもある。
 
 金銭の流出ルートには2種類ある。
1.ひとつは私営企業家だ。
  彼らは政策の変化をおそれ、金を海外に持ち出す。
  癒着した官僚が失脚すれば、自分も危うくなるからだ。
2.もうひとつは、汚職・収賄・国営企業売却などで設けた公務員だ。
  金を国内におくと摘発されて危ないので、海外に映しマネーロンダリングする。

 逃亡には、金と拠点とパスポートが必要になる。
1.金は収賄によって調達する。
2.拠点は中国と犯罪人引渡し協定がない国を選ぶ。
3.パスポートは、部下に手配させることもある。

 1978年からはじまった中国の経済改革は、一度は共産革命によって「私有財産を公有化」したものを、今度は「公有財産を私物化」するプロセスに進んだ。
 つまり、1949年いらい、中国共産党は暴力を用いて有産階級を消滅させ、1978年以後の改革の中では、中国共産党の権力把握者が権力を利用して自分たちや家族を成金階級に変えた、ということである。
 「誰がこの改革で利益を得たのか
 これを明らかにする興味深い研究データがある。
 社会科学院が2003年に行ったアンケート調査によると
 「どの社会集団が、改革でもっとも多くの利益を得たか」
という問に」対して
1.「党と政府の幹部」:73.4%
2.技術者:12.8%
3.労働者:0.9%
4.農民:0.9%
であった。
 では、
 「もっとも損害をこうむったのは誰か
という問には
1.労働者:67%
2.農民:21%
となった。
 従来は農民が第一位であったが、今回は労働者に変わっている。
 それは国有企業のリストラが進んだためであり、農村と都市の両方に不満層が広がりはじめているということになる。
 現在の経済成長は「偽りの需要」によるものだと言われている。
 なぜなら、「人口の大半を占める農村部の民衆と都市部の低所得者層は収入不足にあえぎ、消費能力の低下に見まわれている」からだ。
 つまり、「権力の市場化」は格差をもたらし、経済成長を停滞させかねない、ということだ。
 
 中国で「あなたは中産階級か」と聞いたところ(学生を除く)、47%が「そうだ」と答えた。
 2004年の調査結果である。
 この調査を手がけた調査員は
 「中国の中産階級は、一部のマスコミと学者が作りだしたイメージ・バブルだ」
と言い切る。
 民衆に「自分は中産階級だ」とおもわせ、「消費ブームを起こすことが企業の狙いだ」という。
 調査によれば、中産階級の「4つの指標」(職業・収入・消費・主観)のすべてをクリアーするものは、人口の4%(学生を除く:人口8億6千万人)の3,400万人にすぎないことがわかった。
 海外では、中国に中産階級は6,000万人と見られているが、実際には6割弱しかいない。
 もちろん、個々の指標でみれば数はずっと多くなるが、真の中産階級とはみなしていないのである。
 海外では中産階級は2010年に1億6000万人に達するという見方もあり、外資企業はそれを期待して中国進出に熱心になっている。
 だが、中国研究者は意外と冷めた見方をしている。

 民衆の不満は、もはや抑えられないところまできている。
 農民や労働者の抗議行動が頻発しているのはそのためなのである。
 早急に是正する措置をとらないと、安定した経済成長も危うい。
 民衆が不満な理由は、不公正が「人為的な制度」によるものだからだ。
 「労働者階級が指導し、労働者・農民の連盟を基礎とする社会主義」(憲法第一条)
という建前は、すでに空洞化してしまっている。




[ ふみどころ:2012 ]



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