2012年11月14日水曜日

:「アンナ・カレーニナの原則」

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● 2012/03/16[2000/**]



 草食性または雑食性の哺乳類で、家畜可能とおもわれるものは世界におよそ「148種」しか存在していない。
 大型草食動物の「大型」を、「体重100ポンド(約45kg)以上」と定義すると、20世紀までに家畜化されたのは、たった14種にすぎない。

 これら「由緒ある14種」のうち
限定された地域だけで重要な存在となった「マイナーな9種」は、
ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマおよびアルパカ、ロバ、トナカイ、水牛、ヤク、バリ牛、ガヤル
である。
 また、世界各地にひろがり、地球規模で重要な存在になったのはたった5種、「メジャーな5種」しかなく、それは
 牛、羊、山羊、豚、馬
である。



 家畜化されたものと飼育化されたものとは大きく違う
 この二つはきちんと区別する必要がある。
 ゾウは人間によって飼いならされた動物であっても、家畜化された動物ではない。
 家畜とは、人間が自分たちに役立つように、飼育しながら食餌や交配をコントロールし、選抜的に繁殖させて、野生の原種から創りだした動物のことである。
 つまり、家畜化には、野生種よりも有用になるように、人間によって品種改良されていく過程が含まれている。
 したがって、家畜化された動物は、さまざまな点で、野生祖先種と異なっている

 何千年という長い間に、家畜可能な動物を手にできる立場にあった人びとも、4,500年前に家畜化された「由緒ある14種」以外の大型哺乳類を家畜化することはできなかった。
 そしてこれは、現代の遺伝子学者にもできないことである
 では、残りの134種はどうして家畜化されなかったのか。

 「家畜化できている動物はどれも似たものだが、家畜化できていない動物はいずれもそれぞれに家畜化できないものである。
 この文章をどこかで目にしたような気がしても、それは錯覚ではない。
 文豪トルストイの小説『アンア・カレーニナ』の有名な書き出し部分
 「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである
をちょっと変えたものである。
 要約すると結婚生活というものはもろもろの条件がすべて揃っていなければ’ならぬものであり、とすれば幸福な家庭とは似たりよったりになってしまう。
 しかし、たった一つが欠けただけで、その結婚生活は幸福なものにならない、というものである。
 われわれは、成功や失敗の原因を一つにしぼる単純明快な説明を好む傾向にあるが、物事はたいていの場合、失敗の原因となりうるいくつもの要素を回避できてはじめて成功する。
 トルストイの「アンナ・カレーニナの原則」は、まさにこのことを言い当てている。

 シマウマやヘソイノシシなどの大型哺乳類は家畜化できそうなものだが、人類において家畜化されたことはない。
 それはなぜだろうか。
 「アンナ・カレーニナの原則」によれば、実際に家畜化される野生種は、家畜となる条件をすべて満たしていなければならない。
 家畜となる条件が一つでも欠ければ、その他の条件がすべてパーフェクトでも、人間による家畜化の努力は水泡に帰してしまう。
 動物の家畜化については、親戚筋に当たる種類が家畜化されているのに、別の親戚筋が家畜化されていないという不可解な問題が存在する。
 それは、家畜化の候補となりうる動物に「アンナ・カレーニナの原則」を適用すると、少数をのぞいて、ほとんどがフルイにかけられてしまうのである。

 家畜化がうまくいくに必要とされる「すべての条件を満たしていない」と判断されるからである。
 その条件とは、
①.エサの問題
②.成長速度の問題
③.繁殖の問題
④.気性の問題
⑤.パニックになりやすい正確の問題
⑥.序列性のある集団を形成しない問題
などがあって人間が家畜化できないのである。
 野生哺乳類の’うち、ほんのわずかだけがこうした問題をすべてクリアでき、家畜となって人間といい関係を持つに至ったのである。



 われわれの農作物の大部分は顕花植物を祖先とするが、地球上の植物で一番多いのがその数20万種類におよぶ顕花植物である。
 しかし、野生植物の多くは樹皮の部分が多いとか、人間が食べられる果実・葉・根茎を形成しないといった理由で食用には適していない。
 20万種ある顕花植物のうち人間が食べられるのはわずか数千種である。
 しかも実際に栽培されるのはわずかに数百種にすぎない。
 さらに世界で1年間に消費されるの作物の80%はわずか十数種の植物で占められている。
 小麦、トウモロコシ、米、大麦、モロコシといった穀類だけで、世界中で消費されている食物カロリーの半分以上を提供している。
 世界を見渡しても、主要作物と呼べるものはこれほど少ないのである。
 そしてそのすべてが何千年も前に栽培化されている。
 このことを考えると、食料として有用な新種の野生植物がもうどこにも存在していないとしても、さほど驚くべきことではない。
 実際に、新しい主要食物となるような植物は、近世以降ひとつも栽培化されていない。
 この事実は、古代人が有用な野生植物をほとんどすべて試し、育成する価値のあるものはすべて栽培化してしまったことを示唆している。




 食料生産を独自にはじめた地域は、全世界で9ケ所を超えない。
 5け所だったとも考えられる。
 地域によって農作物や家畜が伝搬しやすかったり、伝播しにくかったりする現象は、
「プリエンプテイブ・ドメステイケーション(栽培化・家畜化の先取り」
と称される現象である。
 (訳注:野生の動植物の家畜化・栽培化によって得られる利益よりも、すでに家畜化・栽培化されている動植物を利用したほうが利益が大きいことが理解され、家畜化や栽培化が独自に進行しない現象)。
 農作物のもとになる痩せ植物の多くは、地域によって遺伝子が異なるのが一般的である。
 農作物の野生祖先種は、地域ごとに異なる野生種のあいだに発生した突然変異がもとになっているからである。
 また、人間が野生祖先種から栽培種を手に入れるときも、新しく見つかった突然変異種を使うか、それを使ったのと同等の遺伝子効果の得られる品種を選抜栽培によって作り出すのが一般的である。



 多くの野生植物の種子は、動物の消化器を「通過しなければ」発芽できない。
 例えば、アフリカ産のメロンの一種は、種子がツチブタに食べられることを前提に進化していて、ツチブタの排泄場所で発芽し、成育することが多い。
 植物の種子は、動物の手を借りて、時として何千マイルも遠くに運ばれる。




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