2012年11月17日土曜日

:小規模血縁集団、部族社会、首長社会、国家


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● 2012/03/16[2000/**]



 現在では、自給自足の生活を送っている小規模血縁集団は、ニューギニアやアマゾン川の奥地にしかいない。
 この社会は通常、5人から80人で後世され、メンバーのほぼ全員が血縁関係にあるか、婚姻を通じての親戚関係にある。
 つまり、小規模血縁集団は、1つの大家族か、親戚関係にある家族がいくつか集まって暮らしているグループである。
 アフリカのピグミー、南アフリカのブッシュマン、オーストラリアのアボリジニ、エスキーモー(イヌイット)などのように、ごく最近になって、政府の支配を受け容れたり、同化してしまったり、絶滅してしまった例は多い。
 小規模血縁集団は、人類が進化の過程を通じて、数百万年間継承し続けたただ一つの政治的、経済的、そして社会的組織である。
 これ以外のタイプの集団は、過去数万年のあいだに登場し、発達したものである。

 小規模血縁集団(バンド)につぐ段階は部族社会(トライブ)である。
 この社会は、通常、数百人規模で定住生活をしていることが多く、また、家畜の世話をしながら季節的に野営地を移動する種族や部族も存在する。
 部族社会は、誰もが皆の名前と、自分とどういう関係にある人間かを記憶していられる程度の人口である。
 人間集団においては、互いに顔見知りで、相手の素性を知っていられる人数は「数百」が限度とおもわれる。
 人間が数百人以上の部族社会は、首長社会に変化する傾向がある。
 その原因の一つは、集団が大きくなるにつれて、知らない人間同士の紛争解決がしだいに難しくなってくるからである。
 小規模血縁集団と同様、部族社会には官僚システムがない。
 警察システムも税金もない。
 部族社会は物々交換の経済である。

 小規模血縁集団や部族社会は、国家の支配の及ばない辺鄙な地にいまでも存在している。
 しかし、首長社会(チーフダム)は、国家がもっとも欲しがる土地を占有していたところが多かったため、20世紀初頭までに、すべて絶滅してしまった。
 数千人から数万人が暮らす首長社会は、人口規模において部族社会よりかなり大きい。
 およそ7500年前に首長社会が出現した時、人類は他人と日常的に向きあうなかで、もめごとやいざこざを問題化させずに解決する方法を見つけなければならなかった’。
 権力を行使できる人間を首長(チーフ)だけに限定することは、もめごとやいざこざを問題化させずに解決するには有効である。  



 知っての通り、西暦1492年当時、世界に存在していた社会の大半は、首長社会や部族社会、小規模血縁集団であって国家(ステート)ではなかった。
 国家の成立は、やはり説明を必要とする問題なのである。
 国家の成立の説明としてもっともよく知られる理論は、フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーの提唱した社会契約説である。
 ルソーのいうところの「社会契約」とは、単純な社会よりも国家のほうが幸福になれるとして人びとが下す理性的な判断を意味している。
 したがって、ルソーぼ社会契約説によれば、人びとが理性的判断にもとずき、人民の総意として単純な社会を自ら放棄するとき、国家が形成される。
 しかしながら、歴史上の記録を見る限り、冷静に先見の明を働かして国家が形成された事例は「一つとしてない」
 小規模な人間集団に属する人びとが、自分たちより大規模な集団に併合されようと自発的にみずからの主権を放棄することはないのだ。
 主権の放棄は、征服または外圧によってのみ起こっている。

 社会の併合は、ルソーの提唱するところの社会契約を通じて自動的に起こるものではない。
 それは、
 争いの解決システムや、
 意思決定しシステムや、
 再配分経済システムや、
 体制的宗教システムが
社会契約を通じて自動的に誕生しないのと同じである。
 だとすれば、社会の併合は、何が原因で起こるのであろうか。



 国家とは一般に5万人以上の集団である。
 国家を形成するまでに至った集団は、食料生産によって市民を支えることのできた集団だけである。 人間社会は、食料の生産をはじめたことによって、少なくとも3つの特徴を追加することができた。
①.まず農閑期に開放される農民の労働力が使えるようになったこと。
 それは、ピラミッドのような公共建造物の建設、あるはまた、国土を拡大するための征服戦争が行えるようになった。
②.二番目の特徴としては、食料の生産によって余剰食料が生まれ、その結果、社会階層の形成が可能にとなり、首長階級、官僚階級、エリート階級などが生まれた。
③.三番目に、食料生産は、人びとに定住生活を可能にさせた。
 あるいは、定住生活を要求した。

 食料生産は、人口の増加を可能にし、複雑な社会形成を可能にする。
 小規模血縁集団や部族社会といった集団が、数十万規模の人口の受け皿としては生き残れないこと、既存の大規模社会が複雑に集権化されていること、これらを同説明すればいいのだろうか。
 明確の理由を4つあげることができる。
①.理由の一つは、集団が大きくなるにつれて、他人同士の紛争が天文学的に増大すること。
②.理由の2つめは、人口が増加するにつれ、社会的な意思決定が難しくなること。
③.3つめは、経済的な理由によっても複雑化し集権化すること。
 つまり、集団が経済的に機能するためには、再分配経済システムが発達し、個人の余剰物が権力の手によって、それを必要とする人びとへと再配分される必要があること。
④.大規模な集団の社会性が複雑にならざるをえない理由の4つめの理由は、大人数が暮らす食料生産者の世界は、人口密度が高いことによって、必然的に外部世界との関係を増大させること。
 地域の人口密度が高ければ高いほど、集団あたりの生活面積が減少する。
 そのため、人びとはより多くの生活必需品を、外部から入手せねばならなくなってくる。
 この外部との関係の拡大が複雑な社会性を持たざるをえなくなる方向へおしやっていく。




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